ゴミ屋敷のトラブルとゴミ屋敷対策として自治体で制定された条例

ゴミ屋敷はどんどん増えていて大きな社会問題になっています。

これまでは具体的な解決策のないこの問題でしたが、自治体レベルでは対策に乗り出しています。

この記事ではゴミ屋敷のトラブル事例とゴミ屋敷を取り締まる条例について見てみましょう。

ゴミ屋敷のトラブル事例

就職と同時に一人暮らしを始めることにしたAさん

初めての一人暮らしと新生活に期待に胸を膨らませて、築年数が比較的新しくて駅からも近いアパートに契約しました。

Aさんが仕事から帰ってきたある日、ベランダ扉を開けた時に、「プ~ン」と鼻を突く強烈な悪臭がするのに驚きました。

どこからだろうとベランダ越しに隣の部屋を覗いてみると、お隣のベランダがゴミ屋敷になっていることに気がついたのです。

契約をする時はベランダに出ることがなかったので気づかなかったのです。

Aさんはビックリとしたものの、「そのうち片付けるかな」と我慢することにしました。

引っ越ししたばかりでお金もありません。

ところがそのまま一か月が過ぎ、二ヶ月が過ぎ夏になるとさらに悪臭は強烈になりました。

さすがの悪臭に我慢できなくなったAさんは管理会社に頼んで注意をしてもらいました。

しかし、一向にゴミは片付けられるどころかみるみると増えていき臭いも強烈に。

これでは部屋に新しくできた彼女も呼べません。

暑い時期に向かい始めると虫が大量にわきはじめ、部屋にゴキブリが沸くように・・・。

何度クレームを入れても全く改善されないため、Aさんは「もうこれは引っ越しをするしかない」と決断し、入居から1年足らずで転居することにしました。

入居するときに支払った敷金や礼金は返ってくることもなく、大きな損をしたとガッカリするAさんなのでした。

これは賃貸マンションだったから引っ越しすることもできましたが、もし分譲マンションだったらゾッとしますよね。

資産家のBさん

ゴミ屋敷にされた大家さんもたまったものではありません。

資産家のBさんは昔からの土地持ちで、余っていた土地がもったいないのでアパートを経営することにしました。

はじめのうちは順調に家賃収入が入ってきたのですが、その中で1件だけ家賃の支払いを滞納するようになっていました。

Bさんは何度も家賃の催促をしたのですが「お金ができたらきちんと支払います」とズルズルと逃げられていました。

滞納期間も1年を超え、そろそろ法的な措置をと考えていたところ大家さんの再三にわたる請求に耐えられず、ついに夜逃げをしてしまったのです。

1年間分の家賃をすっぽかされたBさんでしたが、「やっと出て行ってくれたので新しい入居者に入って貰えば良いや」そんな風に楽観的に捉えていました。

部屋に残された物品を処分してしまおう、と部屋に入ったところビックリ!

部屋の中には信じられないようなゴミが、全ての部屋を覆って足の踏み場もないどころか山になっていたのです。

大家さんは家賃を滞納された挙句、ゴミ屋敷を残されて唖然とするだけでした。

さらに悪いことに悪臭が至るところに染み付いていて、畳やフローリングの張り替え、壁紙の張り替えなど次の入居者を募集するまでに清掃費用だけで200万円もかかってしまったのです。

火災のリスク

ゴミ屋敷は臭いや景観の問題だけではなく、命を脅かすこともあります。

例えばゴミ屋敷から出火した時はぼやで済むことはほとんどなく、90%が全焼、または近所の建物を巻き込む大火事になってしまうのです。

家庭において火事になる原因は

・たばこの不始末
・コンセントからのトラッキング火災

と言った小さな出火がほとんどです。

しかしゴミ屋敷は燃えるものが多いのであっという間に大きな火災になります。

※トラッキング火災

コンセントに差し込んだプラグとコンセントの穴の間にたまったホコリに着火する「トラッキング現象」が原因の火災です。

ゴミ屋敷は掃除がされていないのでホコリも溜まりやすく、出火していることにもなかなか気が付かないので気がついたときには手に負えなくなってしまうのです。

さらにゴミ屋敷は放火のターゲットになりやすいことも問題です。

放火魔は放火する時により大きく火事になるような燃えやすい家を選びます。

明らかに「ゴミ屋敷」とわかる家は特に放火犯のターゲットになりやすいです。

例えば2020年12月、神奈川県平塚市にあるゴミ屋敷で放火による火災が発生し周辺の住宅や店舗など計6棟にも燃え広がりました。

この大火事は鎮火まで11時間以上かかり、大きな話題になりました。

元々放火されたゴミ屋敷は近所でも有名なゴミ屋敷であり兼ねてから放火されたら大変なことになると近隣住人からも懸念されていた場所だったのです。

ゴミ屋敷に関する条例は?

残念ながらゴミ屋敷を取り締まる直接的な法律は整備されていません。

ゴミ屋敷を作ることは法律で取り締まることができないので、住んでいる人が「これはゴミでない」と言えば、自治体が強制的にゴミを処分することは不可能です。

しかしゴミ屋敷を取り締まることができないからと言って放置することは大きな問題となっていて、全国各地でトラブルが多発しています。

ゴミ屋敷は近所に住んでいる人たちにとって大きなストレスですから、行政は対処せざるをえないでしょう。

そんなトラブルの解決法として条例レベルでゴミの強制撤去やゴミ屋敷に関する行政指導を行える条例が自治体ごとに制定されつつあります。

ゴミ屋敷条例を整備している自治体として有名なところに

・東京都足立区
・京都府京都市
・兵庫県神戸市
・神奈川県横須賀市

があります。

東京都足立区の例

東京都足立区では近隣に「著しい」迷惑を及ぼすゴミ屋敷をなくすために、通称「ゴミ屋敷条例」と呼ばれる条例を制定しました。

この制度を利用すれば、最大100万円まで区が撤去費用を負担してくれて、その予算を使って区内にあるゴミ屋敷の片付けを行うという非常に積極的なゴミ屋敷対策です。

実際に撤去に至るまでの流れは、

・近隣住民からの苦情があった場合は立ち入り調査を行う
・ゴミを片付けるように指導・勧告
・撤去の指示を住民が拒否または無視した場合は氏名を公表して10万円以下の罰金
・それでも改善されない場合は、行政がゴミの撤去

となっていて、相談したらすぐにゴミ屋敷が解決できるという訳ではありません。

しかし確実に撤去に向けて動いてくれるというものです。

京都府京都市の例

京都府京都市は2015年に全国で初めて条例に基づいてゴミ屋敷の強制撤去を行った自治体として知られています。

京都市の条例の名前は「京都市不良な生活環境を改善するための支援及び措置に関する条例」

条例の中身は足立区とほぼ同じですが、ゴミ屋敷に住む人への支援を中心であることがちょっと異なるポイントです。

具体的には

・ゴミ屋敷対策プロジェクトチームの発足
・ゴミ屋敷住民への支援を行う「地域あんしん支援員」を配置する

ことになっています。

これにより相談を受けた自治体は最初にゴミ屋敷の調査・訪問を行い、住民が自主的に片付けを行えるようサポートをします。

それでも解決しない場合には最終手段として住民と協力して清掃を行う形をとっています。

2015年に京都市で行政代執行が行われたケースを紹介しましょう。

このケースではゴミ屋敷を片付けない住民に変わって京都市がゴミの撤去を行い、その費用が住民に請求されました。

(行政代執行とは、義務を果たさない人の変わりに行政が動きその費用を後で徴収すること)

京都市は今回紹介するゴミ屋敷に住む住民に対し、2009年から約60回にわたる面談を行いました。

しかし度重なる面談をしたにもかかわらず住民が一向に片付けに応じなかったことから、最終的に強制撤去に踏み切ったのです。

ゴミ屋敷が行政により強制的に片づけられた非常に珍しいケースで喜ばしいことですが、周辺住民が自治体に相談をしてから強制撤去が行われるまでになんと6年も要しており、簡単には行政代執行ができないことが浮き彫りになりました。

神奈川県横須賀市の強制執行例

2018年8月28日、横須賀市は神奈川県内で初めてゴミ屋敷への行政代執行を行いました。

このケースでも自治体はおよそ100回も勧告を行った訳ですが、それでも住民が片付けに応じず2018年8月10日に住民の名前を公表しています。

氏名公表と同時に「同月24日正午までにゴミ屋敷が改善されなければ行政代執行を行う」と宣言しましたが、期限までに改善は行われることなく行政による強制撤去となったのです。

しかしこの場合も全て強制執行された訳ではなく、ゴミの分別の難しさから撤去の範囲を屋外だけとなったのです。

まとめ

ゴミ屋敷を解決するための条例を設定する自治体が増えてきていて、解決に向けた社会的な取り組みは間違いなく前進しています。

しかし条例ができたとしても実際にゴミ屋敷を片付けるまでの道のりは果てしなく、まだまだ長い時間が必要です。