ごみ屋敷が発生する原因から解決の糸口まで

2021年3月15日

いわゆるごみ屋敷という存在はずいぶんと前から存在はしていましたが、テレビなどのメディアで取り上げられてきた昨今、注目されている問題でもあります。一言でごみ屋敷とは言っても、敷地の外まではみ出すほどにごみがあふれかえっているものであれば、一目見ればそうだとわかるものですが、実際は玄関の外は非常にきれいで中を見るまでは何もわからないような「隠れごみ屋敷」が非常に多いのです。

ごみ屋敷が出来上がる理由にはまずその家の居住者の心理状況が非常に深くかかわっているといわれています。まず先天的にごみに対しての愛着を持っているという癖の方も少数ながらいらっしゃるようですので、必ずとは言えませんが、大体の方は最初からごみに対して抵抗がなかったわけではないようです。それこそ生活の中や仕事の中でメンタル面での問題を抱えて、その中でごみ屋敷が形成されていくのがほとんどの理由のようです。今回はそれらの原因とその対処法についていくつかご紹介します。

■ごみ屋敷発生の原因は?

①セルフネグレクト

セルフネグレクトとは、何らかの理由により社会的・身内的な隔絶を経たうえで、自分自身への興味(健康や生活)に興味をなくし、身の回りのことをしなくなる様子を指します。ネグレクトとは放棄という意味がありますが、もともとはパンダなどの動物などに対しての育児放棄の減少などを指して使われてきた言葉です。そこにセルフという単語を付け加えることで、自らを放棄する、という意味を持ち合わせています。

このセルフネグレクトの要因は先のように社会的・身内的な要因が挙げられます。例えば社会的な面で言えばいじめや仕事に対しての阻害、セクシャルなどのマイノリティ要素に対しての迫害などが挙げられます。身内的な要因としては身寄りが亡くなったなどですでにいない状態、最愛の方を亡くした喪失感の強襲などが挙げられます。いずれにしてもこれらの様子がその本人のメンタルに非常に大きな負荷を与えることにより、生への欲を失わせ、生きていくうえで気になっていたことや衛生観念を失ってしまうことにより、ごみが蓄積されていってもそこに対する危機感が生まれず、ごみ屋敷が完成してしまうのです。

②ためこみ症

この理由もメンタルの不調から起こされるものではありますが、ためこみ症は先にあげたセルフネグレクトとは仕組みが異なります。ためこみ症とは読んで字のごとく、ある一定の品物に対して異常な愛着や収集欲が高まり、手元に残しておかないと不安に感じてしまう症状のことです。これもまたもともとの癖として持っている方も少数ながらいらっしゃいますが、大体の場合はセルフネグレクトなどと同じく外的要因による精神的負荷が原因で陥ることがあります。

セルフネグレクトの場合との違いはもう一つあります。それは、一見するとごみ屋敷の主だとわかりづらいということです。セルフネグレクトの場合は、見た目にも気を使わない方が多いため、不潔感や体臭などでその様子がわかることもありますし、家の外にまでごみがはみ出しても気にしない方が多い傾向にあります。対してためこみ症の場合は社会的モラルを失っているわけではないため、外への見え方は気にします。ですので、家の外は比較的きれいであったり、その人の身体的特徴からはその様子が伝わらないことが多いのです。

③孤独・孤立状態

昨今孤独死や孤立死という言葉があるように、高齢者や身体的ハンデをお持ちの方の孤独化・孤立化が社会問題となっています。一人で生活するにあたって金銭的余裕がなく、老人ホームなどの福祉施設に入ることができず、家族の身よりなどがない方々が一人で暮らしていくにあたり、体が動かなくなり周りのことが徐々にできなくなる中でごみの処理ができなくなり、その場にためこむようになった結果、どんどんと蓄積されるというケースです。

この場合、先述の二つとは異なり本人は衛生観念を持ち合わせていいることがほとんどのため、自分で清潔を保てないことへのストレスから先の二つに発展することもあります。それに、孤独化よりも社会的隔絶の意味合いが強いとされる孤立化の状態に陥っている方の場合、どうしてもその様子に気付く人が周りにおらず、余計に深刻化することが懸念されているといわれています。

■ごみ屋敷にしてしまう行動

ごみ屋敷と単に一言で言っても、その動機は様々です。先ほど挙げた三つの事柄はあくまでも要因であって、そこからどういった行動があってごみ屋敷が形成されてしまうのか。どうしてもこれは当人では理解できないか、理解できる状況であっても自分だけでの改善が困難であることがほとんどです。これから上げる行動の内容はいずれも、改善するためには周りのサポートが必要なものであり、深刻な問題でもあるのです。

①セルフネグレクト>最初こそちゃんとしているが・・・

先述したセルフネグレクトの場合ですと、自分への興味関心の喪失からごみの蓄積が引き起こされると紹介しました。具体的にはどういうことかというと、まず自分への関心がなくなるとは言ってもある日ぷっつり興味が途切れるというわけではありません。
 例えば、普段の生活において考えてみていただきたいのですが、テレビを見ながら食後のひと時を過ごしているとき。何かお菓子を食べていたとして、そのごみが発生したとします。そのごみをこれから一週間、一か月と残し続けるかというと、大体の方はそうではないかと思います。大体の場合はその場で処理しますし、そうでなくても何かのついでに処理したり、残す癖があったとしてもいずれかのタイミングでごみを捨てるでしょう。

ですが、セルフネグレクトの場合はそのいずれ捨てる、という考えの「いずれ」がやってきません。立ち上がる気力、ごみを拾う気力、ごみ箱まで歩く気力、ごみを捨てる気力、そこから定位置まで戻る気力、そこに座りなおす気力・・・普通に考えていると「気力」という単語を使うことすらためらわれるような一動作に対しても、本人たちからすると非常に気力を使う行動に感じてしまうのです。そんな小さな積み重ねからどんどんとごみがたまっていった状況になると、なおさらそれを処理する気力がわいてこないのです。しかもそこまで重症化したころには、トイレに行く気力などもなくなるため、用を足すためにそのあたりに放置していたペットボトルを利用してそこにためこんで、またその周辺に放り出してためこむということもいとわなくなってしまうのです。

通常通りの衛生観念が働いていれば決してそのようなことはしないでしょうが、セルフネグレクトの衛生観念の喪失はそうした行動の積み重ねのうち、重症化と慣れによってどんどんと悪化してしまうのです。本人にそれに対する改善の意欲がないため、外に出ることもなければ病院や役所などの各関係機関とのかかわりを持とうとしないため、屋根の下でひっそりとその状況が悪化してしまうのです。

②ためこみ症>ごみの概念がない

ためこみ症の場合はまず本人の自覚として「ごみ屋敷に住んでいる」「ごみ屋敷にしている」「ごみ屋敷を何とかしなければならない」という概念そのものがありません。セルフネグレクトの場合はそれらの処理に興味がないだけであり、往々にしてごみ屋敷に自分が身を置いているということは認識しています。ですが、ためこみ症は全社とは異なり「ためこむことは自分の意志で行っている」という状況なので、ためこまれているごみをごみと認識していないことがほとんどです。自分でためこんでいることなので、場合によっては宝物のように本人からすると大切な品々だと感じていることも多いくらいです。

ためこみ症の心理としては「いつか使うかもしれない」「○○の時に使った大切なもの」「こんな時にまた使えるかもしれない」という概念の元にごみをためこんでいることが多いといわれています。そのため、食べかすやの飲み残しといったようなごみではなく、粗大ごみやハンガー、袋といったような種類のごみの蓄積が比較的多いのも特徴のようです。

もともと几帳面な方が陥りやすいといわれているためこみ症、それだけに本人からするとそれらの使用用途が頭の中にはあるようなのですが、はたから見ると不要なもの、というケースがほとんどです。本人は使い道が頭の中にある以上、誰かに処分されそうになったりすると異様に不安や怒りを覚える傾向があります。感覚的には普段仕事で使っている大切な手帳やバッグを「いらないでしょ、こんなもの」といわれて捨てられる感覚に近いともいわれていますし、大切な人の形見を「もう使うことなんてないのだからいらないでしょ」といわれて処分されそうになる感覚に近いともいわれています。確かにそのような状況に陥れば、普通に心配や怒りがわいてきますよね。ためこみ症の場合はそのベクトルがずれてしまっていることが主症状ということです。

③高齢者や身体的ハンデのある方>頼ることができない苦痛

高齢者や身体的ハンデがある中で社会的・家族的に隔絶されてしまった場合に起こるごみ屋敷の形成は本人にとって最も苦痛が伴うといっても過言ではないでしょう。セルフネグレクトやためこみ症の場合は、少なからずともその「ごみ屋敷にいる」という状況を苦痛に感じているかというと、そうではないことがほとんどです。自分が置かれている状況に興味がないか、むしろその状況を大切に思っているかの違いがあるくらいで、ごみ屋敷にその身を置いている状況をつらいと感じていないことが多いのに対して、社会的隔絶によるものは本人が望んでそうなっていないことがほとんどであるため、精神的苦痛が伴うともいわれています。

電話などで市役所や福祉サービス窓口に連絡をすればいいのでは、と思われるかもしれませんが、それに気づいて実施できている方はまだ大丈夫です。ですが、ごみ屋敷の形成までに至ってしまう人は意外と「きっちりしよう」という意思が強い人に多いとされています。というのも、自分の体が動かなくなってきたことに対して「動く日に自分でちゃんと片付けよう」と考えるのですが、そうしているうちに体の不調が進行し、どんどんと状況が悪化する中で「人に頼るのはよくない、ゴミだらけになっているところをよそ様に見せるのは恥ずかしい、自分のことができないのは自分の責任だ」という考えこみから人に頼ろうとしない方が陥りやすいのです。

もともと家族との絆をしっかりと持っていたり、地域とのかかわりがある方であればそこに頼りやすいという状況も持てますし、何かしらご近所付き合いがあれば、あまり見かけなくなった、家にいることが多い様子といったような、普段と異なる様子が垣間見えることでおのずと周りからの助力を得られることもあります。ですが、そうした関係がもともと築けていない状況でかつ、自分自身に対する責任感が強い人は、どんどんと自分自身で処理しようとする気持ちと動かない状況がミスマッチしていき、最終的にごみ屋敷になってしまうようです。

そして、社会的隔絶の立場にいる状況であると、どうしてもその様子が外に伝わりにくいという問題もあります。まだ外出することがあれば臭いであったりごみの様子が見えたりと何かしらの状況が外部に伝わる可能性がありますが、どうしてもそれが外に見えないことには干渉もないですし、静かに状況が屋内で悪化する可能性が高まるのです。

④引きこもり

これは症状などとは異なり一つの要因として挙げられることなのですが、引きこもりによるごみ屋敷化も行動原因の一つとして挙げられます。引きこもりも社会問題の一つではありますが、これはセルフネグレクトの場合でも孤独化・孤立化にも共通するのですが、外に出ることがない=ごみを外に捨てに出ることもないというような重度の引きこもり状態に陥ったときに、ごみ屋敷状態が進行する可能性があります。

この引きこもりという要因を別で取り上げたのには理由があります。それは、「特定要因で起こるわけではなく、だれでもそうなる可能性が一番ある」からです。どういうことかというと、引きこもりというのは外的要因によるストレスなどだけが原因ではなく、いわゆるニート化、俗にいうゲーム廃人化といったような、外部への興味関心を失うことによって発生する引きこもりが原因でもごみ屋敷が形成される可能性が高いということです。

引きこもりの要因も実に様々です。それこそ社会になじめないというような社会的ストレスもあれば、家族からの虐待といったような家庭的ストレスで発生することもあります。もしくはもともとのパーソナリティの特徴で人とのかかわりが極端に苦手で引きこもるということもあるでしょう。つまり、引きこもりそのものは誰にでもなりえる要因があるということです。

引きこもりでもいろんな種類があります。自分の部屋から一切出ない引きこもり、自分の家の中なら自由に移動するが家からは出ない引きこもり、ごみ捨てなどの必要に応じて超近隣のみ外出する引きこもり、近くのスーパーやコンビニなどまでは外出するが自転車や電車といったような移動手段を用いた外出はしない引きこもりなど、これまた様々です。引きこもりだけが原因のごみ屋敷化であれば、少なくともこれらの種類のうち、ごみ収集場所までごみを出す程度には外出できるレベルの引きこもりであればまだ発生頻度も低いでしょう。ですが、一切屋外に出ないということであり、かつ身辺の世話や管理をしてくれる人がいないとなるとごみ屋敷の発生の可能性は非常に高くなります。

それこそ最初はそうでなくても引きこもり状態が続くことでセルフネグレクトに発展することもあるため、ごみ屋敷形成のいろんな要因の入り口的行動とも言えます。

■ごみ屋敷から抜け出すためには

ごみ屋敷の状態は本人が仮にそれをいいと思っていても、実際にはいい状況ではありません。まずは害虫の問題です。ゴキブリなどの害虫からハエやネズミといった病原体にもなりえる害虫の発生理由にもなります。屋外にまで発展するごみ屋敷の例ではヘビやハクビシンといったようなけがの可能性も考えられる危険な害虫が侵入してくる可能性もあるので、非常に危険な状況なのです。

さらにはごみの種類によっては悪性ガスの発生の可能性も考えられます。過去にはごみの中に塩素系洗剤と硫黄系薬剤が存在し、あるときそれが混ざったことで硫化水素が発生して死亡事故につながったというようなケースもありますし、ガスボンベからある日ガスが漏れていることに気付かずに煙草を吸うために火をつけたところ引火して火事になったというケースもあるため、ガスという要因でも実に様々な要因の危険性が潜んでいるのです。

外への影響で言えばまず悪臭問題が挙げられます。近隣住民からすると迷惑極まりないですし、まず周りにごみ屋敷があるという事実だけでもストレスになります。さらには屋外にまでごみがはみ出している状況であれば景観上の問題も挙げられます。

こうしたように、ごみ屋敷であることについての弊害は実に多岐にわたり、ごみ屋敷は解消されるべき状態であることは一目瞭然です。こうした状態から抜け出すためには。何が必要なのかをご紹介します。

①社会的つながりは細くても持つ

まずは社会的つながりを持つことが重要です。ここで言うつながりというのは、会社での関係であったり友人関係、ご近所関係などもそうですし、家族などの身よりもそうです。もしそうした人間関係の構築が難しいようであれば、市役所や区役所といったような地域自治体とのつながりが重要です。
 とはいっても、これらのつながりを保つことが難しいためにこうしたごみ屋敷の問題が起こっていることを考えると、解決は非常に難しいのも事実です。自治体によってはそうした国民に対する積極的関係の構築を図ろうとしていないところもあれば、親身に訪問や手紙の送付などで状況把握に努めようとしている自治体も存在します。ですが、当の本人がそれらを拒否する傾向にあるため、どうしても解決が難しいのが現状です。そんな中、どうやって社会的つながりを保っていくのか。これが現在大きな課題ともなっています。

②少しのためこみでも自分を疑う

多少のごみのためこみであればだれでも起こすことは可能性としてあります。こうした心労的問題を抱えていない方であっても、日常的にごみを多少ためこんでしまうケースはあるかと思います。ですが、いつもよりごみや部屋の状態に対しての危機意識が薄くなったな、ためこむ頻度が高くなったなという感覚を感じるようになったときは、少しでも自分の現在の状況を疑うようにしましょう。先ほどの孤独化・孤立化にも挙げた通り、自分の現状を「自分で何とか解決しなければならない」という責任感や「人様にこんな様子は見せられない」といったような羞恥感がどうしてもこの状態を促進させてしまう可能性があります。ですので、少しでも自分の衛生観念への変化やごみに対しての抵抗の低下を感じた場合は、誰かに恥ずかしがらずに相談しましょう。もし友人や身内に相談がどうしてもためらわれるのであれば、心療内科に通ってみるのも一つの方法です。これは次の項目に書いていきます。

③心療内科の診察を受けてみる

先にも挙げたように、ごみ屋敷化は心的要因が大きく作用します。特にセルフネグレクトやためこみ症は一種の心的症状ととらえられます。それこそ双極性障害やうつ病といったような病態が発覚する可能性も非常に高くあります。ですが、逆にこれらの八県は治療を行えば改善することができる可能性もあります。自分自身への興味関心が薄れていたり、それを異常ととらえていない状況下で診察を受けるということは非常に違和感があったり、もしくは心外に感じられるかもしれません。ですが、そうした時には「自分はもともとそういった性格だったか?」とぜひ思い出してみてください。もともとそのような性格だったとするならば、他社との衛生観念のすり合わせを行ってみるところから試していただくだけでいいですし、もしそうでないならば、何かしらの理由で何らかの疾患を抱えているかもしれません。

■さいごに・・・

ごみ屋敷ははたから見れば「汚い」「なんでそうなるのかわからない」「人としてどうなのか」といった感覚に陥るかもしれません。ですが、そのほとんどはごみ屋敷に臨んで住んでいるわけではないというところを少し理解できれば、周りからの解決の手を差し伸べるきっかけになるかもしれません。実際、ごみ屋敷は一度片付けるきっかけがあれば再発しないケースも多く、本人も一度きれいな状態に戻れば「ちゃんとこの状態を維持したい」という気持ちの切り替えができて、清潔感があふれる人物像になったというケースもあるくらいです。それくらい、この問題は本人だけでは解決も難しいですし、周りのサポートも重要だということです。周りも当事者も、なかなか動きづらい問題ではあるからこそ、社会的問題としてこれからも国として、自治体としても見直していかなければならない問題なのです。そして、自分自身がその当事者にならないように、これらのケースについての理解も非常に重要なのです。